DX支援のポイント【第5回-海外のDX事例と日本の現状】

2023年11月09日

■海外企業のDX事例
現在の日本においては、組織全体のDXに対する意識が低い企業が多く、それが海外企業との差として表れています。このままの状況が続くと、日本企業の競争力や優位性が急速に失われ、海外との格差がますます増大してしまいます。海外企業に追いつき、伍していくために、まずは近年のグローバルな海外企業におけるDXの動向について見てみましょう。

1.製造業
海外における製造業のDXは、デジタル化のメリットとして生産性の向上やコストカットを目指しながらも、単にITシステムを導入するだけでなく、組織全体の最適化を常に志向していることが特徴です。

CEMEX:
世界大手のセメントメーカー(メキシコ)
DXプラットフォーム「CEMEX Go」を導入し、生コンの発注・出荷・配送の追跡・支払・取引履歴の一元管理を実現。発注から発送状況確認までの全体時間を短縮し、顧客も購入の煩雑さが軽減された。
BASF:
世界最大手の総合化学メーカー(ドイツ)
自動車メーカー向けに「AUROOM」(外装色デザイン支援プラットフォーム)を構築。自動車の価値を決める外装色について、デジタルデータ共有により、顧客塗装ラインでイメージ写真と同様の色を確実に再現することを実現。塗料販売で利益を上げるというビジネスモデルから、自動車価値を向上させるために塗料販売するビジネスモデルへの転換を図った。
CATERPILLER:建設機械最大手のメーカー(米国) 遠隔操作テクノロジー「Cat Commandステーション」を整備して、最大400m離れた場所から建設機材の遠隔操縦を可能とした。一つの遠隔操作設備で複数の建設機材を操縦でき、現場での生産性向上を図った。

2.流通業
生産性の向上やコストカットに加え、コロナ禍以降、流通業においては「非接触」と「決済効率の向上」がトレンドになっており、キャッシュレス、店舗無人化、商品受け渡しの無人化等、さまざまな取組みがなされています。

Amazon:
小さなオンライン書店から始まったECショップ(米国)
「地球上で最も豊富な品揃え」「地球上で最もお客様を大切にする企業」を目標としてECサイトを充実化。AIで顧客の購入履歴を分析して商品ごとの正確な発注数を算出し、適正在庫維持を実現することで、余剰在庫、在庫切れリスクを回避し、顧客に待たせない納品を実現した。
UBER:
配車アプリ、フードデリバリーサービス(米国)
スマートフォンアプリで乗客とタクシーをマッチング。顧客は乗車場所と目的地を指定して配車依頼することで、近くにいるタクシーをスムーズに呼ぶことができ、アプリ上の事前決済で面倒な価格交渉も不要となった。また、ここ数年で急速に利用が進んだ「Uber Eats」は、飲食店は配達にかかる人件費を抑えることができる、ユーザーはデリバリー料理の選択肢が増える、配達員は個人事業主として自由に働ける、という3者にとってのメリットを実現している。
Walmart:
世界大手のスーパーマーケットチェーン(米国)
早期にIT技術の進化に着目し、EC事業やスキャンロボットの導入など積極的にDXに取組む。非接触決済システム「ウォルマート・ペイ」でスマートフォンアプリの機能拡充を図り、薬局や金融部門にもサービスを拡大して、処方箋の注文・支払をアプリ上で完結し、店頭での本人確認、処方薬の受取りを可能とした。今後は、遠隔医療分野へも参入予定。

■海外企業と日本企業の違い
スイスに拠点を置くIMD(国際経営開発研究所)が2021年に発表した「世界のデジタル競争力ランキング」では、1位アメリカ、2位香港、3位スウェーデンと続き、日本は28位という結果でした。アジア諸国からは、シンガポールや台湾が10位圏内に入っています。日本は、特にIT人材の不足やそれに起因したデジタル技術・スキルの不足など、DXへの遅れが浮き彫りとなりました。
グローバルに展開する海外企業と日本企業では、一体何が違うのでしょう。私は、DXに関して、次の6つの点に大きな違いがあると考えています。

■DXが急がれる国内事情
日本には急いでDXに取り組まなければならない国内事情があります。それが「2025年の崖」と「2024年問題」です。「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」で提示された言葉で、企業内の老朽化したレガシーシステムがDX推進の妨げとなり、世界のデジタル競争に勝つことができず、2025年以降に日本国内で発生する損失は最大毎年12兆円となるという予測です。
「2024年問題」は、建設・土木業、流通(物流)業で見たように、2024年4月から時間外労働の罰則付き上限が厳格化されることにより、人材不足が経営を圧迫したり、業務運営が停滞したりする可能性があるという問題です。
これらの国内事情を含め、日本企業はDXに早急に本気で取り組まなければならないことがおわかりでしょう。

■金融機関が取引先に対してできること、求められる役割
日本企業が抱える課題が顕在化してきても、これまで頼ってきたITベンダーやコンサルタントは、残念ながら救いの手にならない可能性があるのが現実です。ITベンダーは、顧客の顕在化したニーズに基づいた開発は得意ですが、現状の実務を見直して、将来を見据えた戦略や運用ルールづくりを一緒に行いながらシステム開発していくことには十分応えられない可能性があります。また、コンサルタントは、将来に向けた戦略策定など大所高所の視点が中心で、それを具体的なIT素材でどのように実現していくかという詳細設計までは手を出さないことが多く見受けられます。
システムに詳しくない取引先と、実務に詳しくないベンダーの間を埋める役割を果たすのが、地域の取引先企業に密着し、経営者の悩みに身近に触れている皆さんだと考えます。

そうした悩みや課題を「見える化」し、その解決に必要な人材や専門家を取引先につなぎ、教育支援等のサポートを提供できる金融機関は、取引先から信頼され、ともに成長していくパートナーとして発展していくのでしょう。その中で、システム化や店舗見直しなどの資金調達ニーズも出てくるでしょうし、新しい販路や顧客の開拓につながるかもしれません。その姿勢が、取引先、金融機関、利用顧客全般の「三方良し」ビジネスになるのではないでしょうか。

株式会社シルバーウェア 藤枝 徹